親守唄・歌会2010 入選作品集
母の一日
一、 朝の目覚めに 手を合わす
鏡を見ては 笑う母
自分が自分で あるのかと
いつまで見てる 母一人
口紅さして 見詰めてる
時の流れも 知らぬ間に
ずっと座って 一人言
二、 働き者の 母さんが
明るい笑顔 見せないの
この頃会話 しないわね
物を忘れて 捜す母
思い出してよ お母さん
おやつの時間 注ぐお茶
お菓子ほほばり うれしそう
三、 食事時には 近づいて
お箸を持って 座ってる
ご飯やおかず 落としても
無言のままで 運ぶ箸
側で見てると ほほ濡らす
しっかり者の 母さんが
なぜ なぜ なぜと 叫びたい
「認知症になりたくないと
努力はしたが 知らない内に
自分が自分を失って
今日も一日 日が暮れた
母の気持ちを 想像して
綴ったものの
母の姿に涙ぐむ」
作詩者:河村豊子(愛媛県新居浜市・78歳)
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一、お母さん ねたきりになったのねー。
お顔を見に来たよ
お母さん、白い花が好きやから
白いの持ってきたで
ほら 白いさざんか、菊、水仙、寒あやめ
お母さん し、ろ、と小さな声で言えたね
そう 白い花やで
テレビのそばの びんに生けとくよ
お母さんは まげにくい首を少し回して
片方の見える目で見てくれた
又 来るからね 元気になってや
バイバイと言って手をふると
お母さんは
ベッドの手すりを ぐっと握って
手すりを ゆらして ゆらして
バイバイをしてくれた
お母さん 又来るからね
二、お母さん 気持ちよさそにねてる
そっと肩に手をかける
お母さん 気がついたのね わかる?
むすめの俊子やで。
ほら むかしもちつきをいっしょにした富さんのことおぼえてる?
富 さん つぶやくように言えたね
そう 富さんの思い出
きのうわたしの家でも 餅ついたよ
お母さんの 片方の見える目で 遠くを思い出すかのよう…
富さんは 鏡餅丸めるの上手やったね
おみそも 二軒で分け合ったよね
お母さんは
今は 流動食 お餅食べられないけど
むかしの苦労を 思い出してくれた
もうすぐ八十八才
お母さん 米寿おめでとう
作詩者:小川惠玉(奈良県大和郡山市・67歳)
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@戦争(せんそう)もあり 疎開(そかい)もあった
ひもじい思(おも)い したけれど
何(な)故(ぜ)か不思議(ふしぎ)と 前向(まえむ)きに
楽(たの)しくみんな 生(い)きていた
明日(あした)を信(しん)じて 生(い)きていた
昔(むかし)話(ばな)しの 最後(さいご)は何時(いつ)も
『えー人生(じんせい)じゃ』が 母(はは)の口(くち)ぐせ
Aいい男(ひと)と逢(あ)い 家庭(かてい)を持(も)てた
子供(こども)五人(ごにん)も 授(さず)かって
狭(せま)いながらも マイホーム
やさしい愛(あい)に 包(つつ)まれて
幸(しあわ)せ色(いろ)に 包(つつ)まれて
惚気(のろけ)話(ばな)しを した後(あと)ぽつり
『えー人生(じんせい)じゃ』が 母(はは)の口(くち)ぐせ
B盆(ぼん)正月(しょうがつ) アニバーサリーに
実家(じっか)にみんな 集(あつ)まれば
母(はは)を囲(かこ)んで 大宴会(だいえんかい)
お祝(いわ)い酒(ざけ)に 涙(なみだ)する
孝行(こうこう)酒(ざけ)に また涙(なみだ)
孫(まご)の乾杯(かんぱい) 音頭(おんど)に笑(わら)い
『えー人生(じんせい)じゃ』が 母(はは)の口(くち)ぐせ
作詩者:岡村千容(大阪府柏原市・61歳)
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幼い頃、私のてをひいて うちまでの長い帰り道
ダダをこねる私に…父さん 何度も 何度も 笑いかけてくれた
今度は、父さんの私が手をひいて 母さんと3人で
ゆっくり ゆっくり うちまで帰ろう
生きること 話すこと 食べること 歩くこと
何気ない日常が こんなにも難しい
生きること 笑うこと 怒ること 涙すること
何気ない感情が こんなにも素晴らしい
幼い頃、私を 車の助手席に よく乗せて
仕事に駆け回る…お父さん いつまでも いつまでも変わらないと思ってた
今では、杖をつく お父さんをとなりに乗せて 母さんと3人で
ゆっくり ゆっくり 風を感じてる
生きること 話すこと 食べること 歩くこと
何気ない日常が ある日突然 途絶えた
生きること 笑うこと 怒ること 涙すること
何気ない感情が こんなにもつらすぎて
今は、雲の上…父さん 元気でいますか?
杖をつくこともなく 自由に歩いていますか?
相変わらず 母さんも私も 元気でいます…
生きること 話すこと 食べること 歩くこと
何気ない日常が こんなにも幸福で…
生きること 笑うこと 怒ること 涙すること
最初に教えてくれた 父さんに あ・り・が・と・う
作詩者:山田陽子(長崎県西彼杵郡・42歳)
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いい匂いする パン屋に行くよ
おこづかい 握りしめて
お母さんの お気に入りの
レーズンパンを 買うんだ
よろこんでる 顔を想像して 歩道橋を 一段飛ばしで
別に特別な日じゃないけど
何かそーゆー 気分なんだ
今日は大変な 宿題あるから
帰ったら すぐにやらなきゃ
勉強して テストでいい点取って
自転車を 買ってもらうんだ
お母さんは こどもの頃 遠足には 袋にいっぱいの
ほしぶどう 持ってたって 言ってたよ 何かおかしいね
いつか僕も 大人になって
今のこと 懐かしそうに
誰かに話したりするのかな
だとしても ずっと未来のこと
変わらないで 忘れたくないよ この歩道橋も パン屋の匂いも
いつまでも このままでいてよ 大人になっても ずっとこのままで
お母さんも ずっと笑顔で お父さんも ずっと元気で
うちの犬も うちの猫も ずっとずっと そのまま笑顔でいてほしい
作詩者:石川賢太郎(埼玉県和光市・30歳)
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